
今回は「遺産分割をやらなかったらどうなる?」というテーマで30年遺産分割をしなかった場合を例に挙げてお話ししていきます。
亡くなった方の財産は相続放棄をしない限り相続人に引き継がれ、相続人がいない場合は国庫に帰属します。
どうやって引き継ぐのかというと、全ての相続人がその遺産についてどの遺産をどの割合で取得するのかを話し合います。この話し合いが俗にいう遺産分割協議です。話し合いが纏まったらその内容を遺産分割協議書にして、相続人全員が署名捺印をし、その遺産分割協議書と戸籍、印鑑証明書等を証明書類として遺産の名義変更の手続きをして相続人に財産が引き継がれていきます。
この一連の手続きをやらなかったらどうなるのかというと、亡くなった方の財産は相続放棄をしない限り相続人に引き継がれますので、遺産分割協議をして手続きをしなければ相続人全員の共有状態となります。
この共有状態をずっと放置したらどうなるのでしょうか?
例を挙げて見てみましょう。
【相続関係のリンク先】
親が亡くなったらすること。手続き 葬儀 相続 相続放棄
遺産分割協議書とは
農地・森林を相続した場合
相続時の不動産調査(市と法務局の相違)
相続手続き 自分でできる?
平成元年時点
設定は平成元年に祖父が亡くなり30年間遺産分割をしなかった設定です。
※表の
・赤枠赤字は亡くなった方
・緑の塗りつぶしは相続人
・黒字黒枠は上記以外の方

平成元年の祖父が亡くなった時点の相続人は緑の祖母と長男Aと長女Bになります。
ちなみに法定相続分は
祖母 1/2
長男A 1/4
長女B 1/4 となります。
平成31年(30年後)
※表の
・赤枠赤字は亡くなった方
・緑の塗りつぶしは平成元年の時点の相続人
・青の塗りつぶしは平成31年時点の相続人
・黒字黒枠は上記以外の方

祖父が亡くなって1年後の平成2年に祖母が亡くなっているので、単純に平成2年の時点で祖父祖母の相続人を長男Aと長女Bの法定相続分1/2づつとして考えます。
表を見ていただければお解りいただけると思いますが平成31年の時点で祖父母の相続財産ついて、30年遺産分割をしていなかったことによって相続人が孫Fの配偶者J・孫Gの配偶者K・孫H・曾孫N・曾孫M・曾孫O・曾孫P・曾孫Q・曾孫Rの9人に膨れ上がっています。
ちなみに法定相続分は
孫Fの配偶者J 1/8
孫Gの配偶者K 1/8
孫H 1/4
曾孫N 1/8
曾孫M 1/8
曾孫O 1/16
曾孫P 1/16
曾孫Q 1/16
曾孫R 1/16 となります。
どんなことが起こりうる?
平成元年の時点で遺産分割をしておけば、一番血縁関係の濃い3人で遺産分割協議をすることとなり、よほど不仲でない限り揉める可能性は低くなります。
しかし30年後の平成31年に遺産分割をすると相続人が9人に膨れ上がってしまいます。遺産分割協議は相続人の人数が増えれば増えただけ協議が纏まらない傾向にあります。
今回、例として挙げている表は一夫婦につき子供2人を設定していますが、実際はもっと増える可能性もあります。
また、30年後の表に関しても曾孫は全員生きている設定ですが、もし曾孫が亡くなっていた場合は亡くなる順番によっても変わってきますが、曾孫の配偶者や子なども相続人に及ぶことになります。
更に血縁関係が薄くなっているといった理由でも遺産分割協議が纏まりにくくなり揉める可能性が高くなります。
突っ込んだことを言ってしまうと、孫Fの配偶者Jと孫Gの配偶者Kはほかの相続人からすると血縁関係のない赤の他人となるので、他の相続人は祖父の遺産について赤の他人2人を交えて遺産分割協議をするということになります。
もし東京都内の一等地で評価額が10億円の土地の遺産分割協議をすることとなれば、他人とは言え孫Fの配偶者Jと孫Gの配偶者Kの法定相続分は1億2500万円づつになり、法定相続分は権利として主張できます。
もし、あなたが孫Fの配偶者Jと孫Gの配偶者Kの立場だったらどういった選択をするでしょう?
まとめ
今回は遺産分割を30年やらなかったという、とてもオーバーな事例で記事を書かせていただきましたが、実際にありえる話しではあります。
公共工事による公共施設建設の予定地として計画のある広大な敷地の一部の土地の地主が3代に渡って相続登記をしていなくて、相続人調査をしたら20名の相続人が出てきてしまったなどという場合、公共用地として土地を収用するのであれば土地収用法により相続登記をしなくても最終的には相続人に補償金を支払うことで土地を収用できます。
しかしその土地を賃借する場合は20名全員と賃貸借契約を結ぶこととなり、1人でも反対していると契約できなくなってしまいます。そういった場合は相続登記をして単独名義、若しくは数人の共有名義にして進めていくのが契約締結にたどり着ける唯一の道です。ですが上記の「どんなことが起こりうる?」で触れてるように相続人の人数が増えれば増えただけ遺産分割協議が纏まらなくなってしまいます。
また公共工事以外で民間企業が土地を任意取得や賃借をする場合は相続登記が済んでいないと、売買・賃借はできません。なのでこのケースでも多人数での遺産分割協議といったハードルがあります。
もっと突っ込んだハードルを想定してしまうと、20人いる相続人の一人が海外にいる・相続人の何人かが認知症になっていて意思表示ができなくなっている・相続人の1人が失踪していて連絡が取れないなどなど・・・ゾッとしますね。
こういった手続きを進めていく中で相続登記がされてなく所有者不明の土地であったり、相続人の調査にとてつもなく時間がかかってしまったり、土地の周辺環境が悪化したり、公共事業や民間取引が妨げられたりといった事例が多くなっていき、このような問題を解決するために相続登記が義務化されました。
遺産分割をしないで放置してしまうと相続人が増え続けて遺産分割協議が困難になってしまう可能性が高くなり、
相続人同士の揉め事や土地の円滑な活用などが出来なくなってしまいます。こういったことにならないように面倒な手続きではありますが一次相続で決着をつけたいものですね!
相続手続きでお困りの方は当事務所にご相談下さい。
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